本日、あわただしく荷物をパッキングして、出立。後で気づいたが、バタバタしていて、案の定、いろいろと上海に持っていくべき書籍や文献、CDを置き忘れてきていた。
飛行機は、羽田から虹橋空港、国際線も少ないから通関も楽だし、都心から都心への便はやはり便利で、降りてからの移動も楽だ。
機内では、ヤッターマンを観る。観たいと思っていた映画だ。観想を一言でいうなら、深田恭子のためにあるような映画だった。監督は、深田恭子の魅力を引き出すことが一義であって、それ以外の目的は二の次としか考えていない節がある。下世話な言い方をするなら、深田恭子という女優に惚れているな、と感じた。深田恭子は演技が下手という評も根強いが、私はそうは思わない。下妻物語の演技は、深田恭子でなくてはなしえなかったのではないかと思う。それでも、下妻は、まだ、他の女優を起用する途はあるような気はするが、ヤッターマンに関しては、それも考えられない。
先日、ある雑誌に新型インフルエンザについて書いた。雑誌はまだ出ていないが、その話はNHKラジオでもしゃべったので、聞かれた方も多いかもしれない。そこには、こう書いた。
「まず、身近なトピックというと、新型インフルエンザだろう。実は、私も少なからず影響を受けた。感染したというのではない。5月に大阪大学で私がゲストとして講義する予定だったのだが、中国で感染者が出たので、休講になったのである」
と。今回は、それどころではない。
なんと、空港で、留め置かれたのである。
飛行機の中に、白装束の検査官が多数乗り込んできて、おでこにスピードガンのような、ポインターのような光線を当てられた。
飛行機から降りると、検査は混雑していて、いつもはガラガラの到着ビルのエスカレーターも停止していて、行列ができていた。
私の番になると、何やら調査票にメモ書きされて、係官から、「こっちこっち」と誘導されて、列から離脱。医務室のようなところに連れて行かれた。
日本人の母子連れと、男が三人。体温計を渡されて、測定せよという。問わず語りに、男ら(当然、私も含む)からボヤッキー(ぼやき)が漏れる。「酒を飲まなければよかった」と。
私も同じ。中年のアテンダントから、「お代わりはいかがですか」といわれ、何年か前に機内でアテンダントに「お客様、赤いですよ」と言われて赤面した恥ずかしい記憶はあるが、お代わりを勧めるとは、珍しいこともあるものだわいと思い、ついつい、お代わりをしたのが祟ったのである。思えば、悪魔のささやきだった。人間は現金なもので、失敗は他人のせいだと思うようになっている。あのアテンダントは、私が検疫で引っかかるのを知りつつ勧めたのではないかとさえ思える。
間抜けの村の三人男、酒気のせいだろう、蚊が寄ってくるのをけだるそうに追っている。
しかし、酒のせいではなく、本当に、新型のインフルエンザだったりしたら、と考えると、想像はふくらみ、新聞に、「日本人教授、無謀にも上海入りを企てる」と、さも確信しての入国であるかのように書き立てられるのではないかと思ったりする。上海を出て関空に着いて、関西に滞在して、帰京したのだ。疑えばきりはない。過去一週間の滞在地を聞かれて、しどろもどろになりながら(なる必要もないのだけれど)、「東京だけだ」とやっとのことで答える。席が出そうになるのも唾を飲んで我慢した。
母子連れの子供は、四歳児程度だろうか、医師の白衣に怯え、固くなっていて元気がない。部屋から出てきて母親に、「なぜ、元気がないの?と聞かれて、いつものように元気よく、返事しないのよ」と怒られている。おいおい、気持ちはわかるけど、それは無理というものよ、と思う。私でさえ、多少は、緊張したのだから。
私は、二度、体温計をあてがわれ、無罪放免。しかし、無罪放免という表現がぴったりするような感覚に襲われていた。冤罪の被害にあったような気もする。検疫のところの蚊も追えない国の癖に……と、これはほぼ難癖というものだろう。
しかし、浦東とは違って、国際空港としての機能が不十分なのだろう、検疫の設備も整っておらず、体温でのみの検査をおこなっているのだと申し訳なさそうに説明してくれた。赤ら顔の三人は、無言で苦笑するのみ。私も体温が上がっているのを自ら感じていた。
さすがに、通関は、代行して終わっていた。
今回も多くの書籍を持ち込んだので、荷物が非常に多く、知人にお迎えを依頼していたものだから、それも気がかりだった。待ってくれていた人も、心配だったと思う。
たぶん、インフルエンザの検査で引っかかったのだとは思いつつも、荷物で引っかかったのではないかとも考えたに違いない。何しろ、大量の書籍を持ち込んでいる。思想犯と間違われる可能性もなくはない。
悪いことに、中国の携帯は、料金のストックが切れていてつながらない。
やっとの思いで外に出ると、ZさんとPさんが心配顔して待っていてくれた。Zさん、Pさん、ごめんなさい。
銀行に行って、円を元に換え、携帯にお金をチャージして、二週間ぶりの我が家に帰宅。